わりと家の近いもの同士の幼馴染み。聞こえは何らおかしくもなんともない、どこ
にでも見られる関係。
 しかし、そのオプションとして、彼女は人を悩殺するまでの美貌を持ち合わせていた。肩まで伸ばされた艶のある黒髪から、中性的な顔立ち。
 それに加え、才色兼備でもあった。
 希乃来はいつも笑っていた。

 俺はそんな彼女しか知らないもんだから、易々と惚れて、幼馴染みだからという腐れ縁のようなフリをして隣に居続けた。

 希乃来が女の子で、清楚な頃の、輝かしくも、暗黒の闇を抱えていた時代。

 それに気付くことなく、中学生に進学してしまった……。

 すると、幼馴染みという枠組みのなかでもべったりだった俺に、隠され続けられていたヒントが出された。

 ほとんど、笑わなくなった。

 これだけじゃない。あちこちに切り傷が増え、ついには首筋にもそれが見られた。
 思いきって傷について切り込んだ質問を投げ掛ける。

"これね、私が自分でしたの。中学生ってそういうことしてストレス解消するようなイタイ人いるじゃん? そんな類いわけであちこちに傷があるわけよ"

"……綺麗な白にキズアト……"

"ん? 白?"

"あ、いや。なんでもない。ストレス解消でするくらいなら、運動しろ!"

"ふふ。私、トキみたいに運動バカでもないのよ"

 この会話の掛け合いで、結局曖昧にされてしまったのを、このときの俺は馬鹿で気付いていない。心からの笑みなんて、溢れてやしないのに。
 知らぬ間にほだされ、臭いものに蓋をし、布まで覆い、笑顔を繕う。俺の前でさえ、健気に吐露もしない可愛い希乃来がいた。

 中学生の許容範囲とか我慢の限度とかって、案外、脆くて小さいものだな、と希乃来と俺を振り返って思う。
 
 彼女が一週間無断欠席をしているのを、人から聞いた。クラスが違うだけに、行き帰り以外は会うことも少なくて、変な汗が全身から吹き出るように流していたのを、鮮明に覚えている。
 希乃来が自身に傷付けた傷の数々が脳裏を過り、嫌な予感を安心に変えるために、この日はすぐさま早退届をだして、自転車をこれでもかというくらい全力で漕いだ。

 そのお陰で早くつけたのは良かったが、足が軽くしびれてもつれながら玄関のインターホンを鳴らした。
 呼吸を整える暇があったら、安否を確認したい、そんな思いで。

 この一週間、母親が毎朝顔をだし、毎日違う理由をつけては俺をはね除けていた。

 少しの時間がもどかしいこの状況のせいなのか、それとも、本当に時間が過ぎているのか。
 応答がない。
 しびれを切らして、ドアにてをかけ、申し訳なさに弱い力で引いてみる。

"おい、うそだろ……?"