「今日は特にツイてない……トキ、今日も行って__」
「来いよ、家」

 これだけは俺の特権。自信をなくしかけた俺を知ってか知らずか、絶妙なタイミングで、憩いの場を求める希乃来。
 俺だけにしか"家に行きたい"などとは言わない、俺だけの特権。

(単純すぎ……)

 苦笑しつつも、幾分か小さい(自分が190㎝近くもあるからそう感じるけど)美少年の隣に並び、爽やかな風が俺たちをゆるやかに押してくれた。

 どっかりとベッドに無断で座る、俺の幼馴染み。
 言い忘れていたようだが、この少年とは長い付き合いのなかで、このような無防備な危険地帯とここは化している。

「俺って、性別なくしたほうが、より快適に過ごせると思うんだが」
「人間じゃなくなるぞ」

 完全に人の家で寛いでるぞ、コイツ。第2ボタンまで開けられたシャツでう~ん、とか唸りながら寝そべらないでほしい。全力で自制心と葛藤する俺の身にもなってほしいものだ。
 守りたい存在から拒否される絶望的感覚だけは味わいたくないからな。

 まぁ、襲わないけども!

 いやしかし。これまた今更だが。はい、「守りたい」とか抜かして、下心ないのか、という疑問については、察しの通り少なからずの下心はありますよ、勿論。
 だって、好きですもん。

「顔が整っているからなぁ……"女"になるのがダメで"男"になると、結果的に"女"と関わることにかわりないんだよなぁ」
「こんな顔のせいかとおもうと、顔面が鬱陶しくてたまらん」
「いやいや、その発言は俺に謝れや」

 軽くひがみをとばす。流石にそこまで否定してても何も始まらないし、俺の好意までもが無下にされている気がするし。
 今は邪魔な感情かもしれないけど、希乃来の心が晴れた暁には、俺の心の内も晴らそうと思う。
 何年かけて手に入れるつもりなんだよ、と自分に哀れみの含む突っ込みをしたい。

「……トキは俺の理想の顔立ち……だ」

 彼女は上体を起こしこちらに来ると、毎日苛立ちを募らせているブツに手をかける。

 俺は一瞬にて、動機が早まった。高二男子が男装女子にときめいて、乙女かよ!

「私は、この顔が羨ましい」

 眼鏡がはずされ露になる俺の顔を、希乃来は視線をそらさず直に目を合わせる。
 それから伏し目がちに眼鏡に目をやり、近くのテーブルに置いた。たった、それだけの仕草。

(ちょい着崩した制服という格好だし、余計、王子みてぇ……)

 端正で精巧に作られた彼女のパーツで、妖艶さがついに、俺の許容範囲の上限を越す。