あれから二人で帰路に着いているわけだが、どうにもこうにも、希乃来の機嫌がすこぶる悪い。
 綺麗なお顔が、と思うほどには、眉根を寄せて手まで両ポケットの中にあるものだから、不良を匂わせている。

「……ふぅ、俺は相変わらず、この位置か」
「……」

 黙って俺の一歩先を歩く彼女。短い髪の毛をなびかせ、女であることを微塵も感じさせない。しかし、性別が「女」である以上、避けられない壁と言うものがあるようで。
 月に一度か二度定期的に、ストレスを溜め込んだ希乃来は、他のやつに悩殺スマイルをかました後、こうして帰路についてから嫌悪を今更露にする。

"守ると誓って、隣にいるのに"

 希乃来の機嫌を損ねないよう、自分自身が接することに臆病になった。そして、やるせなさを痛感するんだ。
 微妙な天気はまだ続いている。
 俺の今の心境と酷似しているような気がした。
 中学生を卒業してから二年はたっているが、古傷に顔をしかめる希乃来は、それに耐えるように「男装」を覚え、自分で傷を癒してきた。俺には治癒できる包容力がないのだろうな。

 そう思わずには、いられないんだ__。

「ねーねぇ、君ら二人でどっか行くの? 私たちも女二人だし、一緒しない?」

 声をかけてきた他校の女子二人に、全力でスカート何回曲げてんだ、と突っ込みたい。これ、完全に痴漢とかの類いの野郎を誘発してるじゃないか。
 それにしても、外なのにこのどぎつい香水の香りはヤバイな。
 俺らに近づいてくる。
 正確には違う言い方の方が合っているだろうけど。
 まぁ、そんなことはいいとして、彼女らは俺らを男だと思って声をかけたんだよな。

(御愁傷様です)

 俺は密かに、ほくそえむ。

「俺たち別に遊びにいってる訳じゃないんだよね。遊ぶんだったら他を当たって」

 先刻の怒りをお面を被ったスマイルで二人に、見舞ってやる。
 流石美形。様になってるな。
 その効果。絶大。
 惚けて言葉すら出てこない。その隙にスタスタと素通りしていく希乃来も強いわ。

(結局は俺たちと言うより、希乃来単体がお目当てなんだけどな)

 正真正銘の「男」が男装女子に劣っています……。

 俺の長身で人の目を引いたところで、隣に待ち構えている神々しい彼女には、歯が立たないんだ。