(そら困るわこりゃ)

 教室のドアの隅に、あれは身を隠していると言えるのだろうか。ところどころ足や手が見えてしまっているのだが、これだけは言える。

「ゾッとするな……」
「一刻も早くここから逃れたい」

(だよなー)

 黄色い声でもあげてれば、対処の仕方も選べたであろうに。隠れきれていないの承知で、携帯のシャッター音すらならないカメラを、地味にこちらへ向けている。

(もう犯罪じゃん? これ)

 すると、急に尻尾を巻いたようにバタバタと去っていく彼女ら、ざっと数えて数十人。ここまでの流れから言うなら、恐らく。

「これから暫く教室から出られなさそうだな。残念だけど起こすのが遅いわ」

 少しだけ哀れみの含んだ調子で同情も混ぜて話すと、大きなため息を一つ溢して、勘弁してほしい、と一言だけ。
 本気で項垂れる希乃来に彼女らを追い払ったであろう、また新たな女たちの集団が現れる。

「大丈夫ですの? 希乃来くん」

(お前らの存在も、コイツには負荷が掛かってるんだけどなー)

 しかし、追い払ってくれたのは事実で、何しろ、平和主義のお人好しは、してくれたことに対して"ありがとう"と言わなければならないらしい。
 いつものようにあの集団をまとめていると思われる一人の女に近寄る。
 なんとまぁ、化粧の濃い女だ。

「ありがとう、君たちのお陰で助かった」

 小首をかしげる程度に微笑みもオプションで付ける。
 俺はその様子を後ろで見ているだけだが、毎度この末路は__。

 希乃来は、その女に躊躇いもなく抱き寄せた。平均身長よりも高めと相まって、余計に完璧すぎる「男装」に惚れ込んでいく。
 いじめに発展せずとも、このようなイレギュラーな事態に早二年陥り続け、尚も解決案が一つも浮かび上がらない今日この頃。
 なんとも言えない微妙な天気がまた、俺の本音を溢すのに助長される。

(男装してもいいとは言ったけど、様になっていいとは言ってない……)

 俺の苦悩はこれからも続くことが予想される。