現実にうちひしがれる俺は、かなり、ダサい。

 目があったのだ。梨乃と。

 お互いがお互いに気付いたくせに。

 抱き締められる手を制さず、そのまま俺に背を向け去っていく。
 
 俺に気を遣った?
 それとも、希乃来に?

 考え出したら止まらない無限ループに差し掛かる。

「あっちゃー、梨乃ちゃん、ありゃプリンスを庇ったな」

 それを止めるべくして現れたような、声のかけ方に、畏怖する。
 タクトは出会った当初も、そうであった。
 話しかけられる最初の言葉、今でも覚えている。

 あの男装した美人さんが好きなんだな

 面食らったのは、言うまでもない。
 分かりやすい、と軽く一蹴されても、そのフレンドリーさから飛び出る突拍子もない発言が、俺の脳裏に警鐘をならすのだ。

「タクト……お前はどこにいたんだ。こそっと見てたのかよ」
「おいおい……たかがあのくらいで、眉間にシワ寄せることないだろー。て、俺がこそこそしてるせいか?」

 とぼけて見せる仕草も、わざとらしい。

「トキちゃん、女の子には絶対、何があっても、手をあげちゃダメだ。特に、お前みたいなやつは、暴力を振るえば今まで積み上げてきた純情も、謙虚さも、信頼も、実力も、底が抜けたように崩れ落ちるからな」

 凛とした眼差しで、真剣に説教じみた言葉を振りかざす。
 オレにとって、タクトのそれがたまに痛い。

「お前の気持ちは分からんでもない。でもな。手を出せば、お前の敗けだ。問答無用で反則敗けだ」

 プリンスもお前も、時間を巻き戻すな

 コイツも希乃来の無茶に、気付いたのだろう。

 そして、過去をさらけ出し、唯一の親友、と呼べるタクトがいて良かった、と少しばかり思ってしまった。
 
(ミステリアスでもユニークでも、なんでもいいか。それがアイツってことにしとこう)