「希乃来くんさぁ、何で放課後私たちと帰ってるの? 本来ならトキと帰ってるのに」

 少し二人の間に距離があるのが不思議でならない。昨日までの女たちなら、これでもかというくらい近寄るくせに。ただの初だと思った私が浅かったのだと、後々わかる。

「何で君はここにいるのにそんなこと言うの?」
「あー……まぁ、私は最近入った新人というやつで、なにも知らないから。でも、よくみかけるのは、トキといるときだったし」
「アイツとは幼馴染みだから」
(トキ……ね)
「へー」

 今日の子は私に無関心なのが声色からして明白だった。ますますここにいる理由がわからない。

「もしかして。トキの事が聞きたくて……?」
「別に? ていうか、私の質問に答えてよ。急に女子たちに対して寛容になったワケを」
「あ、ああ。まぁ、簡単に言うなら、一応俺も君たちの同姓だし、友達がほしい、かなと」

 嘘だ。ほしくなんかない。いらない。妬みの対象になるもの全て、いらない。

 彼女は私の顔をまじまじと見つめてから、顔色ひとつ変えずにこう、言ったんだ。

「憂鬱そうな顔されて言われてもなぁ」

 前を向き直して、誰に話しかけるでもなく、独り言のように。
 
「希乃来くん、私ね。別にあんたの事を特別視しているわけじゃないよ。今のあんたは美しくないし、好きでもない」
「すっぱり言ってくれるね」
「否定できない、なんて思ってるくせに」

 この異彩の放ちかた。私は身震いをしそうになる。
 全てを見透かしたような、形なきものに畏怖する感覚。
 けど、不思議とその恐怖は訪れなかった。身震いするまでの好奇心が生まれるだけだった。

 私は名前すら聞いてこなかった自分をこの時ばかり悔やみ、今更だと思ったけれど、名前を聞いてみた。
 本当に、ここまで嫌み言われているのに、彼女を知りたい。それが勝っていた。

「私は梨乃よ。ていうか……」
「ん?」
「ここの道……私の帰り道」
「そうなんだ? まぁ、俺の帰り道じゃないことは確かだな」
「貴方を送るのが私の役目なんだけど?」
「俺よりか弱いなりして何言ってる」
「うっさいわね! あんただってでかいだけじゃん! 男装して偽装して。そこまで偽りを作るんだったら、最後まで突き通しなさいよ。中途半端に見え隠れする弱い部分なんか、見たくもないわ」

 ああ。
 この子は、分かってる。
 私自身知らないところも、知ってるところも全部。
 それを叱ってくれる。
 トキと似ている……。

 彼女に嫌みばかり言われたが、結局家まで送り届けて自宅へと引き返した。