はれもの扱いを受けようと、好奇の目に晒されようと、彼女からけむたがられようと、俺は俺なりに"守ろう"と中学生の頃、己に誓いをたてた……。




















「悪い、時(トキ)。体操服忘れた、貸して」
「希乃来(キノラ)、それは女子に言えって毎度__」

 教室に入ってくるなり、体操服を貸せと俺の席の前に立つ女……いや、男は、有無を言わさぬ眼力で睨みを効かせ、眉間に皺まで寄せている。

「……はぁ、分かった。今日はそのまま持ってていいから」
「助かる」

 その一言だけで会話は終了。
 学校での俺たちは、仮面を被って過ごしているのだ。
 体操服を受け取るとさっさと去っていく希乃来。

「あーあ、希乃来くん、行っちゃったぁ……」
「ほんの数十秒でこのクラスは薔薇色になったわ……」
「あの華麗さは神様のさずかりものなのよ……」
「隅でも、生で見られるこの喜びは、他のクラスの女子には教えたくないわ」

 口々に感嘆の息を漏らしている女子たちが、不意に俺の方をみやる。

「トキくんがいるから、このクラスにくるだけ、だもんね……体操服なら私たちだって貸せるのに……」
「まぁ、小さいからってのは分かるんだけどね」
「でも、異性に借りちゃうのが羨ましいのよね!」
「きっと、希乃来くんを剥こうとか、下心ありありなヤツだっているに違いない!」

(ちょっと待て。その流れでなぜ俺を見る!)

 向けられる冷たい視線に少しの反抗として、さらっと睨む程度にしても……。この眼鏡が邪魔で、威圧的にならないのが傷だ。
 彼女らの敵対心には目を背け、次の時間の準備をしてから、睡眠体勢にはいる。
 希乃来が「希乃来くん」として、なに不自由なく、寧ろ、こちらに回ってくる妬みは放って置くとして。
 希乃来の身は今日も守られている。
「……い。おい、起きろ。俺、帰れない」

 肩を揺さぶる本人が、人を引き付けてしまったのだろう。困ったような声色で、俺の脳は完全に覚醒した。

「っと、ごめんな。あれから寝てたわ。さぁ帰るか__っと」