キミに恋の残業を命ずる

撮影、リハーサルが終わったのは夕方に近い時刻だった。


リハーサルは30分ほどで終わったのだけれど、撮影がけっこう長時間になった。


カメラマンさんスタッフさんいわく、つい熱が入ってしまったらしく「なにしろ被写体がとても素敵でしたから」とのこと。


「お天気もよくてお花が一段と綺麗でしたもんね」とわたしが相槌を打つと、スタッフさんは余計に笑って、



「そうですけれど、花はあくまで被写体の引き立てですから。ふふ、本当に可愛らしい花嫁さんですよね」



言われた裕彰さんも、ずっとニコニコしていた。










その後着替えてホテルに戻ろうとしたところで、スタッフさんに親族の方が来ていると教えてもらった。



ロビーで待っていたのは男の人と女の人。

ふたりとも背が高くて美人で、一瞬モデルさんが現れたかと思ったけれど、



「亜依子さんっ?」

「友樹!」



大好きな顔ぶれにわたしと裕彰さんは驚いた。



「亜海ちゃーん!」



亜依子さんが笑顔で駆け寄ってくる。

ふたりとももちろん式に参列してくれることになっているけれど、来るのは明日だと思っていたのに。



「式が楽しみでいてもたってもいられなくて来ちゃったの。話には聞いていたけれど、ほーんとに素敵な所ね!もうおとぎの国か!って思っちゃった!わたしもここで挙げたかったー」



と言うけれど。

都内の一流ホテルで挙げた亜依子さんの式だって、それは豪華で素敵だったんだから。


一番大きなフロアに何百人ってお客様を招いて、登場する時はプロジェクションマッピングで演出されて。赤いカーペットの上を堂々と歩く亜依子さんと友樹さんも、それはもう立派で華やかだったんだから。



服部専務…いえ、友樹さん(亜依子さんから社外ではそう言って、と頼まれていた)は相変わらず忙しい。

4月より専務に昇格して上層部に仲間入りしてからは、年若いだけあっていろいろ苦労が絶えないようだけれど、持ち前の優秀さで立派に職務をこなしているそうだし、亜依子さんも自分の仕事をこなしつつ、夫であり上司である友樹さんをしっかりサポートしている。



「おふたりとも忙しいのにありがとうございます」

「なに言ってるのよ。親族の晴れの場に忙しいもなにもないわよ。でしょ?兄さん」



もちろんだ、とばかりにと裕彰さん深々とうなづく。



お父さんとはぎくしゃくしていたけれど、亜依子さんとは以前から良い関係を築いていた裕彰さん。


友樹さん亜依子さん裕彰さん。

歳はちがうけれど、三人の付き合いが深いのは大学が一緒だったからだ。

と言っても、三人が一緒になったのは、友樹さんが大学4年生、裕彰さんが2年生、そして亜依子さんが1年生の頃の一年限りだったそうだけど。



亜依子さんは一緒のゼミになった裕彰さんに絡んでいくうちに、自然と友樹さんともつながるようになって―――すったもんだがあったそうなんだけれど―――結果、こうして友樹さんと公私共々のパートナーとなった。


三人のことはまだまだ知らないことばかりだけれど、深い絆で結ばれているんだな、ってことはよく解かる。


そこにわたしが交われて、しかも『親族』になれるなんて…なんだかうれしいような恐れ多いような…。



「わたしも新しい家族ができてうれしいのよ。寡黙な父に根っからお嬢様の母。そして元ニートのハーフ兄貴…なんてイロモノ家族に囲まれていたところに、こんな素敵なお義姉さんが来てくれたんだから」



ニートじゃねぇよ、と引きつらせる裕彰さんの横で、ぽっと顔を赤らめてしまうわたし。



「お、お義姉さんだなんて…」

「え?だってそうでしょ?」



亜依子さんはにっこり。まぁ…そうだよね…。構成的にはそうなるんだ…。



「うー…でも亜海のまんまでいいです」



亜依子さんは「ふふふ」と意地悪く笑った。



「あー可愛い『お義姉さん』ができて幸せ!」



その隣で微笑んでいた友樹さんも、



「不束者の義妹だが、よろしく」



口元に笑みをたたえて頭を下げる。



「わわわ…!専…友樹さんまでからかわないでくださいっ」



裕彰さんもなにか言ってよ…っ。

…なんて救いのまなざしを向けるけど、裕彰さんは目を細めているばかりでフォローしてくれそうにない。


イジワル兄妹!って思うけど…すぐにあきらめる。


だって、その表情は春の陽射しにも負けないくらい朗らかで、ほんとうに幸せそうなんだもの。