彼は、いつも乗るはずの乗車口に現れなかった。


 私はいつもと同じ場所にいたのに。


 ……それに、彼は駅のホームで、可愛い女の子と手を繋ぎながら談笑していた。


 眠そうな顔、意地悪そうに細められる目、優しいところ。


 私は彼のその3つしか知らなくて、初めて知った彼の屈託のない笑顔が彼女の隣で作り出されたものだと知って、心臓がぎゅっと痛くなった。


 ばかみたいだなと思った。


 お礼のつもりだったくせに、本当はそれだけの気持ちじゃなかったこと、それだけですませたくなかったことに、気付いちゃったから。




 結局、お礼もできず、チョコも渡せず、告白したわけでもないのに失恋決定。


 用事を果たせないって知った私はいたたまれなくなって、今まで一度も降りたことのない駅に、衝動的に降り立った。