見ず知らずの人の背中が顔面にぶつかったり、誰かの鞄が脇腹にグイグイ押し付けられたり。


 息もできないくらいに苦しくて、ドアに押し付けられた私の顔は真っ青。


 はじめてだったと思う、あんなに苦しいって思ったの。


 体育の長距離走より、中学校の部活でやってたバレーより、なによりも苦しかった。


 本気で呼吸がしずらくて、もうダメかも、って思った時だった。


「アンタ、大丈夫?」


 頭の真上から、そんな声が聞こえたのは。


 それは、どこか聞き覚えのある声だった。


 その声の持ち主が毎朝見かける先輩だってことには、すぐ気付いた。


 けど、見上げる体力もないくらいもみくちゃにされてて、大丈夫、なんて言葉も上手く出てきてくれなくて。


 ……本当は全然大丈夫なんかじゃなかったんだけど。


 それでも、ただ無言で私は首を縦にふるしかなかった。