「すごいですね~。バレンタインデーまでまだ一ヵ月以上あるっていうのに、もうこんなに予約が入ってるんですかぁ」

 短期アルバイトの柿本(かきもと)美佳(みか)ちゃんが、パソコンの予約表を見て感嘆のため息混じりに言った。美佳ちゃんは今日から一ヵ月後のバレンタインデーまで働いてくれるのだ。現在二十五歳の彼女は、マロンブラウンのセミロングヘアを後頭部で緩くまとめていて、ダークブルーのハイネックニットとフェイクスエード素材のプリーツスカートがよく似合っている。

 彼女の話では、大学を卒業して就職したものの、職場の上司が替わってから人間関係がうまくいかなくなり、退職したのだという。今はやりたいことを探して、短期のアルバイトを繰り返しているそうだ。

「お客として来てたときはここまでとは思わなかったけど、やっぱりすっごく人気があるんですね~」

 美佳ちゃんが感心したように言って、店内をぐるりと見回した。

 観光スポットに近い繁華街の商店街。その一角に私の店、チョコレート専門店の『モン・トレゾー』はある。七年前、チョコレート好きが高じて、会社員を辞めてチョコレート専門店を開いた。もちろん、私が作るんじゃない。私が好きなのは食べるほう。だから、日本はもとより、世界中から気に入ったおいしいチョコレートを買い付けて、店で売るのだ。そのチョコレートはどれも私の宝物。

 美佳ちゃんと同い年――二十五歳――のときにいわゆる脱サラをして店を立ち上げて、もう七年。それを改めて思って、少しの感傷を覚えた。