電車に揺られながら、唇を噛みしめた。油断すると泣いてしまいそうで、顔を上げて瞬きを繰り返しながら、涙を散らす。

 七年前、『忘れてください』って言ったのは、私の方なのに。『新しい恋をしたのなら、永遠に忘れて』って言ったくせに。本当に忘れられたことがこんなにもショックだったなんて。

 この結末を選んだのは私なのに。

 私はどうにか気持ちを切り替えて、モン・トレゾーのドアを開けた。店内にお客様はおらず、美佳ちゃんがレジカウンターの向こうから声をかけてくれる。

「おかえりなさい。鈴音さんがすごい勢いで出て行ったからびっくりしちゃいました」
「ごめんね」
「イケメンパティシエの実演、どうでした?」

 美佳ちゃんに屈託のない笑顔で問われ、私は視線を逸らした。

「どうって……よかったですよ」
「実物もやっぱりイケメンでした?」
「そうですね」

 私は曖昧に答えながらコートを脱いで、パーティションのうしろにあるハンガーに掛けた。どこまでも落ちていきそうな気持ちを奮い立たせるべく、両頬を軽く叩く。