恋の後味はとびきり甘く

「すぐに作りますから。って言っても、チキンのトマト煮込みなんですけど」

 涼介くんが言って微笑んだ。今日はこんなふうに消えそうな笑みばかり浮かべて、いつもみたいに大きな笑顔になってくれない。それはどうして? 最後の晩餐のつもり……?

 そんな不安を押し隠して当たり障りのないことを問う。

「涼介くんはよく料理をするんですか?」
「ときどきですね。学校の食堂で食べる方が多いです」

 涼介くんが私に背を向け、キッチンの上の棚からキャセロール鍋を取り出した。

「じゃあ、今日は私のために腕を振るってくれるんですね」
「あまり味の保証はできませんけど」

 涼介くんが言って冷蔵庫から食材を取り出し、調理を始めた。狭いワンルームでは彼の一挙手一投足が見える。それを記憶に焼きつけたくて私はじっと見ていた。

 背中に視線を感じるのか、涼介くんが振り返って苦笑する。

「なんか……そんなふうに見られていると緊張します」
「ごめんなさい」

 私は言って視線を逸らし、ラックの中からチョコレートの本を抜き出した。チョコレートのレシピ本だ。生チョコレート、トリュフ、プラリネなど、さまざまなチョコレートの作り方が載っている。それを見るとはなしに見ていると、やがていい匂いがしてきて涼介くんが両手でキャセロール鍋を運んできた。