恋の後味はとびきり甘く

 彼が言って、私の手を握ったままコートのポケットに入れた。その後は無言になる。口を開いて先週の話題になったら、と思うと怖くて、私も黙ったまま歩いた。いつもなら涼介くんと一緒だったら沈黙も心地いいのに、今は違う。

 着いたところは住宅街にある単身世帯向けの低層マンションだ。よくCMで、家電家具付きだと謳っている会社の賃貸マンションのひとつで、彼の部屋は二階にあった。

「階段しかなくてすみません」

 狭い階段を上って二階に行き、一番奥の部屋の前で彼が鍵を取り出した。

「どうぞ」

 彼がダークブラウンのドアを開けて先に通してくれた。後から入った彼が壁のスイッチを押し、ワンルームの部屋がパッと明るくなる。

 壁際にベッドが置かれていて、その前にローテーブルがあり、ベッドと反対側の壁際に、テレビ台と小型のテレビが置かれていた。テレビ台の横のラックには、チョコレートの本や雑誌がいくつか並んでいる。

「狭いんですけど、適当に座ってください」
「ありがとう」

 涼介くんが私のロングコートを受け取って、コートハンガーにかけてくれた。リュックはベッドの足にもたせかけるように置く。

 私はベッドを背に、ローテーブルの前に座った。