次の日の朝、ほとんど会話しないまま、いつも通りキスをして別れた。なにを言えばいいのか、なにを言ったらいいのか、お互いわからなかったんだと思う。

 そうして無我夢中で互いを貪った日から、涼介くんからはなんの連絡もなく、私から連絡を取ることもなく、一週間が過ぎていった。

 閉店時間の迫った八時前、モン・トレゾーのドアが開く音がした。涼介くんかと思ってハッとして顔を上げたけど、入ってきたのは大学生くらいの女性客ふたりだった。明るい茶髪のストレートヘアの女性とゆるふわパーマの女性だ。

「いらっしゃいませ」

 にこやかに声をかける。ふたりは小声で話し合いながら、ショーケースを覗き始めた。

「やっぱり本命にはほかと違うチョコの方がいいよね」
「うん、ここのならかぶらないと思うよ」

 ふたりの言葉で、バレンタインデーまであと一ヵ月と少しだということに気づいた。

 いけない、ぼんやりしてた。多めに発注してたはずだけど、在庫とオーダー履歴を確認しておかなくちゃ。バレンタイン用の包装紙も用意しなくちゃいけないし、やることはいっぱいあるのに。

 自分を戒めたとき、ゆるふわパーマの女性が顔を上げた。

「すいません、カタログみたいなの、ありますか?」
「はい。各種メーカーのものを揃えています」