それから、しばらく狩りは続いた。

姫はしっかりと猪を狩って、それを今日の夕飯とするために屋敷に持って帰る。


福留と久武は姫が狩った猪を屋敷に運ぶと調理師を呼んだ。


「福留様、どうしましたか?」

「うむ、姫が狩ったこの猪を今日の晩飯のおかずに頼む。」

調理師は福留の言葉にきょとんとした顔をする。

「へ?姫が?冗談キツいですよ」


「良いからさっさと調理しろ!姫は腹ペコだぞ!」


「は、はいぃぃ!!」


福留は姫が狩った事に疑問を持った調理師に怒鳴るような声を上げた。

姫の家中でのバカにされっぷりは酷いもので調理師にも陰で笑われている。


さっきの調理師にもまさか姫が猪を狩るなんて想像出来なかったのであろう。


「全くどいつもこいつも姫を何だと思っとる。姫はやれば出来る娘なのだぞ。」

「福留殿、落ち着いて下さい。みんなは姫の出来る姿を見ていないだけですから。出来る姿を見せたら考え方も変わりますよ。」


「出来る姿を見せたら・・・か。それが出来たら苦労はせんわ。戦場に姫が行こうとしないんじゃからの・・・!


福留の声は力が無かった。

これ程の逸材なら戦場で活躍できるのに姫は心が弱い。

せっかくの武の才覚が埋もれてしまって勿体無い。


「福留殿・・・。焦らなくても良いのでは無いですかね?無理矢理戦わせても良いことは有りません。大殿が亡くなる前までに初陣さえすれば良いのですから。」


久武が言うのはもっともだ。

古今東西、才能が有る者に無理矢理戦わせても良いことはない。

とは言え、早くしないと大殿が倒れてからでは遅い。


大殿は別に体が弱いとかは無いが、戦国の世だ。

何があるか分かったもんじゃない。