さくらが「好き」と言ったのは戸山のこと。



それはわかってるけど。





今だけ、その気持ち利用させて。





「…………俺も好きだよ」



そう声をかけると、さくらの眉がぴくりと動いた。



それを見ながら、もう一度、




「俺は、さくらが好き」




さくらの表情が幸せそうに緩む。





都合が良いのはわかってる。



さくらが「好き」と言ったのは戸山のことなのに、勝手に自分だと解釈して。



だけど、俺がさくらに「好き」と言える機会はたぶんもう訪れないだろう。



だから、ごめん。



今だけさくらの「戸山が好き」だというその気持ちを使わせて。




気を取り直して俺が少し速めに歩き出すと、俺の襟元を握るさくらの手の力は

どんどん弱くなっていった。