フィンセはナンバー1


 屋上から撮影場所へ戻ると、エキストラの人達が、集まっていた。

「坂口さんー。さっき、スタッフから、教室にいたり廊下を歩いていればいいって、説明があったよ」

「そうなんだー」

 あたしは、エキストラの人達が、集まっている方へ歩いていった。

「あ、君達!悪いんだけど、次の撮影で、あそこの階段から、仲良く降りてきてくれないかな?」

 エキストラをまとめていたスタッフが、さっき、撮影した踊り場の近くの階段の方を指差しながら、あたしと南君に言った。

「あ、あたし達だけですか?」

「悪いねー。急きょ、カップルが階段から降りてくる所に変更になったものだから」

「えっ!あたし達、別にカップルじゃ……」

 あたしは、慌てて誤解を解こうとした。

「2人で話しながら、降りてきても構わないから。じゃ、頼むね!」

 勘違いしたまま、スタッフは仕事場へ戻って行った。

「俺はこのまま、カップルになってもいいんだけどなー」

 南君が横で、独り言のように呟いた。

「……そのことだけど、なかなか返事できなくてごめんね」

「ごめん。返事、急かしているわけじゃないんだー」

 南君は、苦笑いしながら階段へ向かった。