……。は?
キスはわかる。でも、へ? なんで?
「な、なんで霊安室なの?」
覆っていた髪の毛をかき上げ、堂々と顔を表に出した。もうすっかり冷静さを取り戻していた。
ちょうど霊安室をさっきの女性が出て、廊下の突き当たりを右へ曲がると、佐野くんは私の手を引いて、女性が出てきた霊安室へ連れ込んだ。
「えっ、ちょっと!」
戸惑う私を他所に、佐野くんは笑っている。
それはもう、爽やかな笑いなどではなく、冷血で、人を小馬鹿にしたような笑いだった。
「ほら、大きい声出したら、このおっさん、起きちまう。」
そう言って、ベッドの上で横たわっている遺体を指さした。
遺体。遺体を見るのはこれで3度目だ。
「さ、佐野くん。罰当たりだよ!」
「何言ってんの? どうせ死ぬんだし、今更何の罰が当たっても怖くないさ。」
得意げにドラムロールを口ずさみ、遺体の顔に掛けられている白い布をテーブルクロス引きのように、引いた。
そして、会ったことのない他人であるおじさんの寝顔が現れ、私はその顔に釘付けになった。



