「痛くない?」
「ああ、大丈夫。」
ゴシゴシと音だけが響き、私が磨いたところが徐々に赤みを帯びていく。
これが男の背中なのか。
大きくて、ちょっとゴツゴツと骨ばっていて、首から背中にかけてコブが3つくらい出来ていて、硬い。
背中に入っているのは背骨だろうか。お尻の割れ目に印を付けるようにすーっと伸びている。
かっこいい。たくましい背中。
思わずヘチマたわしを置いて、その背中に抱きついてみた。
胸が背中と擦れて気持ち悪いような、気持ちいいような、でもそれだけじゃない。
この温もりと安心感はなんだろう。
心臓が早くなっていく。鼓動がとくんっとくんっとくんっと。
男の人の匂いがする。私が知らない男の匂い、男の背中。
この背中に負ぶさって、夕焼けを見ながら土手を散歩して、菜の花が夕日に染まって、橙色に見えた。犬が寄ってきて、怖くてしがみついて、優しく頭を撫でてくれたあのゴツゴツとして、大きな手。タバコのヤニの匂いのする不器用な大きな手。
私の封印していた記憶が一気に蘇ってくる。



