そして、その足で戸倉さんのアパートに駆け込んだ。

玄関で私はバスタオルを投げてやり、金子は受け取ると、頭と濡れた右肩を拭いている。

「お風呂、沸かそうか?」

「いや、いい。」

いや、良くはない。金子が風邪をひくことは一向に構わないのだが、この部屋は戸倉さんの部屋であって、雨水染み込んだジーパンでカーペットが濡れるのを黙って見ているわけにはいかない。

「いいから、ほら。」

私は渋る金子のコートを脱がし、胸元に意味もなく紐が付いている服を脱がした。

金子の上半身が露になり、意外と筋肉質な腕には『悪』という字が書かれていた。

「刺青。いつ入れたの?」

指先で悪の字をなぞりながら聞いた。

「この仕事始めた頃に。江戸時代、和歌山の方でそういう風習があるって聞いて。」

「そういう風習?」

「罪人は腕に『悪』って刺青を彫られるって。まあ、俺のしてることは許されることじゃないんだけどさ。何となく罪の意識を背負うっていうか、戒めというか。」

ふーん。背負うなら背中に彫ればいいのにと思ったのと同時に、私は刺青にすっかり魅せられていた。

「私も入れたいな。」

「やめとけ。」

金子は私の腕を払うと、そのまま浴室へ入っていった。