「忙しいなか、わざわざ足を運んでいただきすみません」
「……いえ」
氷上さんとの待ち合わせは、SS社に近いあのカフェで。それから直ぐに移動し、初めてSS社の本社ビルに足を踏み入れることに。
SS社は大手玩具メーカーだけあって、ビルのデザインは恐竜をイメージした変わったもの。
(すごい……)
顔を上げてちょっとだけ見とれてると、周りから笑い声が聞こえて恥ずかしくなり、顔を伏せて急いで氷上さんのもとへ走る。
彼は、微笑みながら私を待っていてくれた。
「す、すみません……お待たせしまして」
「いえ、構いませんよ……失礼、電話に出ても?」
「あ、はい……どうぞ」
氷上さんはスマホを取り出すと、律義に私に断ってから電話に出た。
彼の黒いスマホには、やっぱりあのストラップ……北海道にしか棲息しない“ナキウサギ”と“オオワシ”のマスコットがぶら下がってる。
ナキウサギは私がゆみ先輩のためにと縫い上げたのに、どうして氷上さんが持っているんだろう?
……あの、中学の卒業式で。
直接渡す勇気は出なくて、それぞれの靴箱に託すだけで精一杯。手紙すら添えることができなかった意気地無しの私。
副会長をしていた皐月先輩の人気はすごくて、靴箱には溢れんばかりのプレゼントが詰まっていて。何の飾り気もないマスコットなんて、絶対捨てられると思ってたのに……。
なぜ、皐月先輩のオオワシだけでなく。ナキウサギのマスコットまでストラップにして、今も使っているの?
氷上さん……。



