「…………」

「…………」


ミラージュに併設されたカフェの木製のテーブルで黙々とサンドイッチを口に運んでると、突然向かい側から「ちょっと!」と声が掛かる。

「どうしたの、真湖」


サンドイッチを運ぶ手を止めてそちらを見れば、真湖はムキッ! と髪の毛を両手でくしゃくしゃにする。


「どうしたの? じゃないっ! こっちこそ、どうした! だわ!! あんたね、バレンタインまであと3日でしょう。なのに、なんで! 熱心に読むものが動物図鑑なのさああ!!」


なぜか半狂乱気味の親友を、呆気に取られながら眺めた。どうしてバレンタインの話がでるんだろう?


「うん、そうだね。だけど、別に私にバレンタインは関係ない……」「って、あんた! それ、マジで言ってんの!?」


椅子から立ち上がった真湖は、体を乗り出して私に顔を寄せる。ずいずいっと彼女に迫られ、顔がひきつるのを感じた。


「う、うん……だって……私……贈るのはお父さんとお兄ちゃんくらいだし。あ、友チョコなら期待して。ちゃんとトリュフ作るから」

「ち·が·う! 義理よりも友チョコよりも。もっと大事な相手がいるでしょう!」


「えっ……と」


真湖は、一体誰のことを言ってるんだろう? バレンタインチョコを贈りたい相手なんて私には……そう戸惑ってると。業を煮やしたか、真湖はビッと私を指さした。


「氷上さん!」


真湖が唐突に出した名前に、心臓があり得ないほど跳ねた。