あなたのヒロインではないけれど




「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


氷上さんに渡された缶のミルクティーを両手で包み込むと、冷えた指先がじんわりと暖まってきた。しばらく手を暖めてから、慎重にプルタブを上げて缶に口をつける。ほんのりとした甘さが、温かさとともに身体中に広がった。


「気分は晴れました?」

「え?」


氷上さんを見ると、彼はいつもと違う笑顔を向けてくれてる。それは作り物でない……本当に、人を案じてくれる表情だった。


「気分が塞いでいるように思えましたから……いろいろと強引にお付き合いさせてしまいましたが。少しは楽しんでいただけたでしょうか?」

「あ……」


そういえば、と私は思い返す。ゾウの餌やりから今まで、積極的に誘われたと。


だけど……嫌じゃなかった。いいえ、むしろ童心に返ったように楽しめた。


それはきっと……氷上さんのおかげ。私を心配して気分を晴らそうとしてくれた、彼の思いやりでこんなふうに楽しい時間を過ごせたんだ。


私はミルクティーをテーブルに置くと、首をゆっくりと横に振った。


「いいえ……氷上さんのおかげです。こうして楽しい時間は本当に……久しぶりでした」


ありがとうございます、と頭を下げると。なぜか木のテーブルに置いた私の手に氷上さんの手のひらがそっと置かれる。


(え……)


「鵜野さん……」


氷上さんが押し殺したような声で、私を呼ぶ。息苦しいほどの緊張に満たされた瞬間――



「ああ、面白かった! サル山はやっぱいつ見ても最高! 世の中の男を見てるようで」


仲田さんの声が聞こえて、すぐに氷上さんの手が離れていった。