あなたのヒロインではないけれど




「鵜野さん、これ」

「え?」


重い気持ちを引きずっていると、突然氷上さんに小皿を渡された。


お皿の上には切られた果物が載っていて、意味がわからなくて彼を見上げると、背中に手を添えて軽く前に押される。


「ほら、ゾウが待ってる。早くおやつが欲しいって、催促してますよ?」

「え……ええっ」


驚いて前を見れば、一頭のゾウが鼻先で橋に似た金属製の装置を叩いてる。その装置はこちらの柵から突き出して、ゾウ舎のあるスペース近くまで伸びてた。


「ここに入れれば、ゾウがおやつを食べられるそうですよ」

「え……は、はい」


半信半疑で緑色の装置に果物を投入。以前はこんな装置がなかったから、どうやって? と不思議に思い見守っていると。


なんと、ゾウは長い鼻を使って緑色のベルトコンベアを器用に動かし、えっほえっほとおやつを引き寄せてる。


「わ……すごい」


思わず、そんな言葉を漏らしてた。ゾウがゆっくりとだけど確実にベルトを動かすのを見て、夢中になって応援した。


「が……頑張って。あと、すこしだよ」


途中で鼻が滑って何度か失敗していたから、ハラハラしながら胸の辺りで両手を組んで祈るように見守る。


そして、ゾウはベルトの上に載ったリンゴを鼻で持ち上げ、無事に口の中に入れることができた。


「よかった……」


ほっと胸を撫で下ろした私は、自然と口元がほころぶのを感じた。ゾウは私の分を食べきって、早速他のお客さんの分を回してる。周りのお客さんから歓声が上がって、まったく知らない人たちも笑顔で言葉を交わしてた。