あなたのヒロインではないけれど




「最近の売れ筋はどうですか?」

「あ……はい。あの……」


氷上さんから何気なく訊かれただけなのに、予想外の質問にあたふたしてとっさに言葉が出ない。近くにいた真湖が肘でつついて、これと指差ししてくれて。ようや答えがひねり出せた。


「あの……や、やっぱりバレンタインが近いので……シンプルな商品が売れます。最近は男女問わずしっかりしたものが人気なのか……こ、このシリーズが好評です……はい」


まるっきり知らない人でもないのに、お話するだけでドキドキして落ち着かない。


なかなか喋らない私はきっとぼんやりした鈍い人間に見えただろうに。氷上さんは表情をまったく変えず、辛抱強く待っていてくれた。無理に促すことも、せっつくこともなく。


「そうですか。それは意外ですね……私の読みとはずいぶん違ってます。鵜野さん、貴重なお話をどうもありがとうございます。仕事の参考になりそうなお話でした」

「い……いえ……」


仕事をする上で知っただけなのに、氷上さんはまるで私が特別なことをしたとでも言うように褒めてくれて。よけいに気恥ずかしくて、頬に熱が集まりドキドキが強くなった。


昔から人に認められることが少ない私は、こうして褒められたりすることに慣れてなくて。感謝や嬉しさより先に恥ずかしさを感じてしまう。


俯いた私を焦れったく感じたのか、真湖がまた背中を肘でつついてきたから慌てて顔を上げたら。


氷上さんが真剣な眼差しで私を見下ろしていて、ドキンと心臓が跳ねた。