あなたのヒロインではないけれど





「あ~……」


ぬいぐるみは風でずいぶん流され、水深が深そうな場所を漂ってる。


せっかく買ったアースィの新しいぬいぐるみ……めったになく気に入ったものだったのに……。


(どうしよう……なにか棒で引き寄せてみようか)


落ちた木の枝や棒がないか探そうと一度の池に背を向ける。

しばらくして派手な水音が響いたから、驚いた私は当然振り向いた。


――そして。




「はい」

「…………」

「これ、あなたのでしょう?」

「……あ」


思わず手を伸ばそうと躊躇うけど、彼は私の手にそれを握らせてくれた。


「大事なものでしょう? なら、もう無くしちゃダメです」


まだ早春の冷たく深い池からぬいぐるみを助け出してくれた人は。


そして……ずぶ濡れのぬいぐるみを差し出しにこりと微笑んだひとは……。


私が、いつまでも恋い焦がれて止まない……あの人だった。