ようやく空が白み始めるころ、やっと氷上さんは私を離して疲れのためか寝入ってしまった。

手のひらで熱を確認すると、すっかり下がってる。ほっとしてベッドから下りると、体のあちこち痛みが走った。


だるいしつらいけど……彼が起きる前に帰らないと。


濡れたタオルで体を拭いた後、それを始末してベッドの下に散らばった服を着込む。


安心したように寝入る氷上さんに……最後だから、と告げた。


「……好きになって……ごめんなさい。でも……もう二度と会いませんから……さようなら」


そっと、額に口づけてマンションを出る。


これで……よかったんだ。


私ではあなたのヒロインにはなれなかったけれど。私は私の新しい人生のヒロインになろう。

最後の最後に、思いがけない素敵な思い出を貰えた。


これで……諦められる。


20年の想いを。


最後に、一粒だけ涙が頬を濡らしたけど。仰ぎ見た空は――眩しいほどに晴れ渡ってた。