「なぜ……氷上さんが」
「……違うのか? ワシはてっきり、結実ちゃんと貴明が付き合ってるとばかり思ってたが」
「ち、違います!」
私は直ぐ様否定した。とんでもない誤解だ。
「氷上さんは……貴明さんは。いつもあるひとしか想ってません。心を占めるのはそのひとだけ……私のことなんて、ただの仕事仲間だと」
「そうかね? ただの仕事仲間にこれを渡すものか?」
洋介おじいちゃんがちゃぶ台の上に置いたのは……氷上さんのマンションのカードキーだった。
「少なくとも、ワシが知る限りは結実ちゃん。あんたが初めてじゃよ。貴明が家に入れた女性は」
「でも……それはキャンディの……猫のことがあったからで」
「そんなの、貴明ならばいくらでも頼れるやつはいたろう。専用のペットホテルもあった……なのに、やつは結実ちゃんにマンションに来てほしかった。その意味はわからないかね?」
「…………」
洋介おじいちゃんの言いたい意味がわからない。本当に……わかりたくない。わかったら後に戻れなくなる気がして。
「……貴明は確かに三つで母を亡くして代わりを幼なじみに求めたが……公私はきっちり分けるやつじゃ。好意を持たぬ女性を家に入れることなどない」
だから、とおじいちゃんはこう告げた。
「40℃の熱を出しても、看病のためにとワシが寄越した家政婦も追い返すほどにな」
「え……」
氷上さんが、そんな高熱を出した!?
そういえばずっと咳をしてつらそうだったことを思い出し、思わずちゃぶ台から立つと。おじいちゃんはカードキーを私へと寄越した。
「……確かめてきなさい……あいつと自分の気持ちを。後悔しないようにな」



