「鵜野さん、こちらとしてはあなたが行ってくれるのは助かるけれど……本当に良いの?」


ミラージュの事務所で、一美店長がまた確認をしてきた。


「はい。そろそろ私も新しい環境で自分を試してみたかったんです。このまま優しい人たちに囲まれたら、いつまでも甘ったれて成長しない気がして。一度、離れてみないと何もかも変わりませんもの」


これは、偽りではなく本音。

ネイサンさんに痛烈に批判され、かなり落ち込んだけれど。確かに私は苦労知らずの甘ったれだった。自分で何も背負わず誰かの判断に流されてばかり。そんなのじゃ、氷上さんどころか誰にも選ばれないのも当たり前だった。


「大人に……なりたいんです。新しい環境で何もかもを一から築き上げれば、また変われそうな気がします」


ちゃんと、自分と言える確固たるものを持ちたい。内気でおどおどした自分とさよならするために、生まれ変わるために。私は行くんだ。


氷上さんやみんなとのお別れは……逃げるためじゃない。成長するために、私は見知らぬ土地へ向かう。


私の固い決意を聞いた一美店長は、解ったわと頷いてくれた。

「あなたがそこまで言うなら、生半可な決意ではないんでしょうね……でも」


一美店長はなぜか眉を寄せる。


「本当に、氷上さんに黙っていていいの? この転勤を」

「はい。というか……絶対に言わないようにお願いします。彼とは……もう関わらないので」


どうせ直ぐに忘れて訊かれることなんてないだろうけど、念には念を入れて店長に頼み込んでおいた。


氷上さんに私のことを訊かれても何も答えないでください、と。