車から降りた瞬間にゆみ先輩は公園へと走っていく。両手を広げると、「懐かしいわ!」と叫んだ。
「ここ、全然変わってないのね……あ、でも。ジャングルジムとシーソーとぐるぐる回るのが無くなってる」
「老朽化で撤去されました。安全性からもう設置しないみたいですよ」
「そっかぁ……残念。日本もバカみたいに過保護になっていっちゃうのね」
心底残念そうにため息を着いたゆみ先輩は、私が唐揚げを紙皿に置くのを興味深く眺めてる。
程なく、三毛猫のミケが来て唐揚げだけをかっさらって行った。
「うわぁ、本当にあのマスコットそっくり! あなた、器用なのねえ」
「いえ……ただの趣味ですから」
ミケがハグハグと唐揚げを頬張る姿を見ていると、どうしてもキャンディを思い出してしまう。
ちゃんとご飯を食べられているかな? トイレは? キャンディはすぐ便秘になるから……猫草と新鮮な水とマッサージが必要なんだ。
そんなふうに考えていると、ベンチに腰かけたゆみ先輩はぼつりと呟いた。
「……本当に、懐かしい。憶えてる? あなた……あちらで男の子たちに囲まれてたでしょう?」
指差したのはかつて池があった草むら。やっぱり……ゆみ先輩は憶えていて、私だとハッキリ判っていたんだ。だから誘ってきて……。
今さら、隠したところでどうもならない。だから、私は素直に認めた。
「……はい、憶えてます。あの時はありがとうございました」
20年ぶりに、私は彼女にお礼を言えた。



