とぼとぼとSS社の階段を降りていく。
エレベーターだと社員でない私は目立つから、以前の阿部さんのように目をつけられないために階段を使うようになってた。
階段を降りきってロビーに出ようとしてから、慌てて柱に引っ込んだ。
……玄関ロビーにいたのは、他でもないゆみ先輩だったから。
今日は以前と違い、白い生なりシャツと淡いブルーのジーンズにデニムジャケットとキャンパス地のスニーカー。栗色の髪は後ろで束ねて、メイクはほとんどしていない。ずいぶんカジュアルな恰好だった。
それでも、その美しさと凛とした空気はさすがで。漂うオーラが違う。本物の美女は着るものは選ばないって本当なんだ……と感心しながら、チクチクと胸に痛みが走る。
私とそう身長が変わらないのに、スタイルも美しさも存在感も何もかも違う。羨ましい……と。心底思った。
私が得られない氷上さんの心も……。
ポロリと涙がこぼれ落ち、床を濡らした。
きっと氷上さんと待ち合わせだと思ってたのに、彼女はなぜかキョロキョロと回りを見回してる。時たま受け付けに訊いたり、やけに落ち着かない。
氷上さんはもしかすると残業なのかもしれない……だけど。私にはもう関係ない。
後は二人だけの問題だから……とゆみ先輩が受け付けに走った隙に、ロビーを早足で抜けようとしたけれど。
なぜか通りかかった瞬間、ゆみ先輩はくるりと振り向いてニコッと笑った。
「見つけた! あなた、ええと……ごめんね、名前知らないけど。一度お話したかったの。よかったら、少しだけお時間もらえる?」
息を弾ませたゆみ先輩に、なぜか申し込まれてしまいました。



