それに、と私はいろいろと彼の良さを並べ立てる。それから、彼との約束を思い出した。
“氷上さんと離れること”――。
それを、実行しなくっちゃいけない。
悲しいし寂しいし辛いけど……誰も私が彼のそばにいることを望まないし、彼も望んでない。
私が必要とされたのは、単に仕事のアイデア出しなだけ。
第2シリーズの企画が本格的に始動した今、私ができることは本当に無くなった。なら、後は去るだけだ。
不必要な人間は……笑ってさよならを言おう。
「それから……アクアシリーズの企画も順調ですし、私は今度こそミラージュに戻りますね」
「…………」
「じゃあ、さようなら……」
ペコリ、と頭を下げた私の手を、氷上さんはあっさりと放した。
少しも引き止められなかったことに寂しい気持ちがあるけど。これでいいんだと自分に言い聞かせる。
靴を履こうとして、指輪の存在に気付いた。
(これも……お返ししよう。やっぱり私に相応しいものじゃなかったから)
名残惜しい気持ちを押さえながら、指から抜き取る。玄関の靴箱にそれを置いた刹那――いきなり肩を掴まれて驚いた。
後ろを振り向いたところで、肩を掴まれたまま背中がドアにぶつかる。何が起きたのか頭が理解する前に……氷上さんの綺麗な顔が目の前にあって。
柔らかいあたたかさが、唇に感じられた。



