「どろぼう猫……?」
意味がわからなくて目を瞬いていると、阿部さんは顔を歪めて――次の瞬間。頬に鋭い痛みが走った。
「そうよ! あなたがわたしの場所を奪ったの。氷上さんはもう少しでわたしと付き合ってくれたのに……後から来たあなたがのうのうと居座って。
許せるはずないでしょう! わたしは……大学の時から彼が好きだったのよ。ポッと出のあんたなんかに奪われた悔しさがわかる!?」
打たれた頬にじんじんする痛みと熱を感じながら、詰られる内容をぼんやりと理解する。
この人は……氷上さんが好きだった。大学入学からずっと追いかけ続けて、苦労して同じSS社に入社して。女性ながら営業で頑張ってきたのに。その氷上さんとあと少しで恋人になれたところに、私と言う横やりが入った……と。
痛い……
頬も痛かったけど。
それ以上に、胸が痛かった。
氷上さんを好きな人が、私以外にいても不思議ではなかったのに。ゆみ先輩のことがなくても、彼には彼女が……恋人ができてもおかしくないんだ。
なのに……私は。彼の厚意に甘えて、何を浮かれていたんだろう。
ただの仕事仲間なのに、マンションに行けるスペアキーを持つこと事態がそもそも間違いなんだ。
……お返ししよう。
スペアキーも、他のものも。
やっぱり、氷上さんはふさわしい人と一緒にいるべきなんだ……。
(ごめん、真湖……励ましてくれたのに。やっぱり私は意気地無しだ)



