“指輪はちゃんとしなよ”
真湖のアドバイスがあって、氷上さんから贈られた指輪を毎日身につけることにした。
なんでも、こちらの決意を伝えるためだとかなんだとか……よくわからないけど。きちんと男性と付き合ってる友達のアドバイスだから、ちゃんと意味はあるんだろうと従うことにする。
「頑張んなよ! あんたの根性見せてやりな」
ミラージュを出るとき、真湖はグッと親指を立ててきた。微妙な笑みでそれに応じた後、いつものようにSS社に足を踏み入れた時。いつもと違う事態に陥った。
「あなたが、氷上さんと同じチームで働いてる鵜野さん?」
ダークネイビーのスーツに身を包んだとても綺麗な女性が、会議室に向かう私を呼び止めてきた。
「あ、はい……あの、あなたは?」
「わたしは、氷上さんと同じ営業部の阿部。今度、ミラージュとの共同開発商品の第2チームに選抜されたの」
第2チーム!氷上さんが話してた、アクアシリーズを担当する班のメンバーだ。
もしかしてわざわざ挨拶するために呼び止めて下さった?なら、と急いで先に頭を下げた。
「そうでしたか……あの、はじめまして。私は鵜野結実と言います。精一杯頑張りますから、これからよろしくお願いします」
私のような人にまで気にしてくれるなんて、なんていい人だろう。好感を持って顔を上げると――その美しい顔は到底好意とは程遠いものを浮かべてた。
「でも、わたしはとてもあなたによろしくなんて言いたくない。どろぼう猫のあなたなんかにね」



