あなたのヒロインではないけれど





ネイサンさんからの仄めかしはあったけれど、今まで貴明さんがアメリカについて触れたことはない。


これは、私の反応を見るため? それとも単純に口を滑らしただけか、ただ普通に昔ばなしをしただけか。


再会して(私の中の氷上さん像では出逢って)半年は経つのに、彼は一度たりとも私を探るような真似はしなかった。ただの仕事仲間で……他の女性と同じ様に優しく接して。特に変わった態度は見られなかったけれど。


(落ち着いて……彼はただ、普通に話題として話してるだけ。挙動不審になって勘ぐられてはいけない)


あの、土まみれだった小さな女の子だと……気づかれたくはない。それが惨めだとかみすぼらしかったからだとか、そんな理由ではなくて。ただ……その女の子だと知られたら、きっと私はタガが外れてしまう。


懐かしさと慕わしさから、必死に押し殺そうとしている自分の気持ちを、彼にぶつけてしまいそうだったから。


たとえ彼が今現在ゆみ先輩とお付き合いしていなくても、彼の想いが彼女の上にあることはよく解ってる。こうして恋人のように振る舞っていても、所詮仮初めの……一時の夢のようなもの。


あくまでも、儚い幻に過ぎない。


どれだけ貴明さんが優しくしてくれたとしても、彼の心は私に無くて。永遠にゆみ先輩のものなのだから……。