あなたのヒロインではないけれど




「あの……でも、その……わ、私と二人きりというのは……ご、誤解されてしまいますから。その……他の方もご一緒に」

「それならば大丈夫です。私に考えがありますから、明日は全て私に任せていただけますか?」

「…………」


言葉以上に無言の重圧がすごかった。まだ私が口出ししたら、たぶん言い負かされるのは目に見えてる。


だから、承諾する以外に何が出来たんだろう。


(大丈夫……大丈夫。今回だけだから。氷上さんに従えば……)


今回はあくまで仕事のためで、プライベートじゃない。だから、デートには当てはまらないはず。


(ゆみ先輩……ごめんなさい。今回だけ……今回だけはお付き合いしますが、きっともう二度とないでしょうから安心してください)


人目を考えたのか、氷上さんが離れた駅での待ち合わせを指定してくれて助かった。近い駅だときっと知り合いに会ってしまうから。


ただ、“指輪をしてきてくださいね”とやけに何度も念を押された意味がわからない。服も仕事用ではなく、カジュアルでも良いから私服にしてくださいと指定されたから、小花柄のフレアーワンピースに夏らしく白いカーディガンを合わせて、足元はコルク地のサンダルにした。

あんまりお洒落にしていると、気合い入れすぎと思われてしまう気がして。メイクもいつもより少しだけカラーを変えたくらいで。アクセサリーは氷上さんの指輪と、耳元に小さなピアス程度。これで失礼にはならない……はず。