「氷上さん、このままだと風邪をひきますから……お家に入った方がいいです」
4月初旬の昼間は暖かさを感じても、夜はまだ肌寒い。コートを着ても身体が冷えてしまうから、帰宅を促した。
それでも彼はなかなか動こうとしないから、私はどうしていいかわからない。真湖ならきっと蹴っ飛ばしても強引に連れていくんだろうけど。さすがにそれは無理。
30分ほど沈黙が続いた後、身体が冷えて震えてきた。
(このままだと氷上さんが風邪を引いてしまう)
これ以上外にいては体に悪い。
すぐ近くに自販機があったことを思い出した私は、タクシーにもういいと伝えて料金を払ってから、自販機へと走る。ホットコーヒーを買って戻ると、氷上さんの手にそれを握らせた。
「氷上さん……ほら、体が冷えちゃってます。これで体を暖めて……もうお家に入りましょう」
彼が無事にエントランスに入るまで見守るつもりだった。入り口にはどうやら警備員さんがいるから、放置されることはないと思って。
だけど、氷上さんはいつまで経っても動かない。吹く風が強くなり、空気も冷たくなってきた。
スマホで時間を確認すると日付が変わろうとする時間帯。本当に、これ以上は体に毒だ。
もう、遠慮はしていられない。
「氷上さん、いい加減に帰った方がいいですよ。立てますか?」
ありったけの勇気を振り絞った私は、氷上さんの腕を取って彼を立ち上がらせようとした。すると、あっさりと彼は立ち上がると私の後について歩き出す。
そして、エントランスのドアを開いてそのまま彼が入ったタイミングで手を離そうとしたのに。
いきなり氷上さんに引っ張られて、一緒にエントランスへと足を踏み入れてしまってた。



