あなたのヒロインではないけれど






「え……わ、私ですか?」


どうして? と思う。私はただのヘルプ要員で……氷上さんのお家に行けるほど親しくもないのに。


「仕方ねえんだよ、マトモなのはあんたとオレだけだからな……」


結城さんがチラリと後ろを見て、再び大きなため息を吐いた。彼の言うとおり……レジャーシートの上では酔いつぶれた人たちが転がってる。


真湖は未だにネイサンさんと肩を組んでアニメの主題歌を歌ってるし、仲田さんは「もう飲めにゃい~」とむにゃむにゃ寝言を言ってる。


「美子はオレがタクシーで送ってく。あんたはうちと反対方向だし、氷上と家が近いからすまんが、頼むわ。一応歩けるから支える必要はないが、いろいろと怪しいから付き添わねえと。
ま、もっとも……いくら酔おうが氷上ほど安全な男はいないから安心しな。こいつには好きな女がいるみたいで、どんなに酔ってどんな美人に迫られようと、応じることはなかったからな」


結城さんの話に、新しい痛みが胸を走る。


「……知ってます」

「ん、何か言ったか?」

「いえ……」


頭を振った私は、複雑な気持ちで氷上さんと同じタクシーに乗り込んだ。


(知ってます。好きな人も、それがどれだけ素敵な人なのかも……)


楽しかったはずの花見なのに、胸に苦い重みを残してあっという間に会場が遠ざかっていった。


夜の紛れて消えゆく灯りは……まるで、私の心のようだった。