「結実、結実ったら、起きなさい! 遅刻するわよ」
「……へ? あ……」
お母さんの声でガバッと飛び起きる。サイドボードにある時計を見た瞬間、ムンクの叫びさながらに叫んだ。
「8時半……うそぉ! ち、遅刻だぁ」
今日は9時出勤なのに! と慌ててベッドから飛び起きると、顔を洗いにバスルームへ駆け込んだ。
☆
「……で、今日はギリギリだったから。あたしに泣きついてきた訳ね」
「……返す言葉もございません」
真湖が運転する軽自動車の助手席で、私は項垂れるしかありませんでした。
真湖にメッセージアプリでHelp! と入れて。ついでに乗せていってくださいと頼んだのが8時39分。真湖は5分で来てくれて、その間に猛スピードで着替えと支度をした。
お母さんが車で食べなさい、と用意してくれた小さなサンドイッチを頬張り、ペットボトルのミルクティーで流し込む。
「ま、和子おばあちゃんのために働いて疲れたせいで寝坊したなら仕方ないっしょ。店長だって理解してくれるよ……あ、それちょうだい」
信号待ちで真湖にポテトのサンドイッチを渡した時、なぜか彼女は私の手元を凝視する。おや? と首を傾げているうちに、いつの間にか信号が青になって後ろからクラクションが鳴らされ、慌てて発車させた。
「ちょ……結実、その指輪はなに?」
「へ?」
指輪? と何気なく自分の手元を見て……ギクッとした。
氷上さんの指輪……外すの忘れてた!
ふっふっふ、と真湖が瞳を爛々と輝かせているのは、想像に難くありませんでしたよ……。



