あなたのヒロインではないけれど







(ミラージュを辞めることはないよ……よほどのことがない限り)


その日の夜、私は自室のベッドの上でため息を着いた。抱き枕がわりのぬいぐるみを抱きしめて、サイドボードにある箱に入った指輪を見つめる。


……1ヶ月前に……氷上さんがくれたリング。


ただの模造品と思ってたのに……裏にはSilver925の刻印があった。

小さいけど本物の宝石も入ってる。


シンプルだけど、ずいぶん上品な艶消し仕上げで。普段使いには差し支えなさそう。

シルバー製とはいえ、たぶんお値段は10倍どころじゃない。そんな高価なものを……婚約者がいる人が、ただの仕事仲間に贈る意味がわからなかった。


(ううん、きっと、他意はない。 氷上さんは優しいから……誰にもおなじ。私が特別だからってことはないんだ)


頂いた日以外に指輪を身に付けたことはなかった。


氷上さんからは何も言われなくて、ならやっぱり特別な意味はないんだと思う。もしかすると、彼自身贈ったことすら忘れているのかもしれないな。


(でも……ちょっとだけ。人前で填めて見せびらかすなんて図々しいことはしないから……せめて……夜の間だけでも……いいよね?)


自分で買ったビロード張りの箱から指輪を手にして、指に填める。不思議なことに他の指は駄目で、右手の薬指にぴったり。


(ゆみ先輩……ごめんなさい……今だけは……許してくださいね……)


どうか、夢の中だけでも氷上さんと自由に会えるといい。そう願いながら、そっと目をつぶった。