「それなら、意味がないので捨てるしかありませんね」
「え」
氷上さんはいきなり近くの小川に駆け出すと、振りかぶって手の中にあるものを投げた。キラリと光るものは放射線を描き、ぽちゃりと落ちて川面に波紋を広げた。
驚く、と言うよりもそこまでするの?という思いが大きい。
どうして、私が受け取らなかっただけで指輪を捨てるの?
あなたが贈るべきはただ一人……ゆみ先輩に、でしょう?
こんなふうに勘違いさせることをしては駄目なのに……。
「ひ、氷上さん……」
追いかけた私が胸を押さえながら息を弾ませていると、彼は振り向いて真面目な顔をした。
「僕は、本気でしたけどね」
(何を? 何に対して本気で……?)
氷上さんが体ごと私に向き直ると、広げた手のひらにあったものは……投げたはずの指輪で。ホッとした私は、その場でへなへなと座り込んだ。
氷上さんは膝をつくと、
「騙したみたいですみません……ですが、ふざけて贈るつもりではない。それだけは解ってください」
そう話すと、私の右手を取り手のひらにあった指輪を指に填めた。



