空煌兄さんが家に来て
一ヶ月経ち、前の家から持っ来た
服だけでは足りないだろうと
四人で駅にある洋服店に
買い物へ来たのがお二人に
見つかるきっかけに
なるとは、僕も空煌兄さんも
予想していませんでした。

+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

「ねぇ、空煌
これなんてどうかしら?」

お母さんは楽しそうに
あれやこれやと持っ来ては
兄さんに合わせています。

何件か店を回り、
あらかた買い物が終わったので
お母さん達は先に車へ
戻ることになりました。

『よかったですね』

ついでとばかりに
僕の新しい服も
買ってもらいました。

『なんか悪い気がするんだよ……
あんなに沢山買ってもらっちゃって』

『いいんですよ。
お母さんもお父さんも
買い足りないって顔をしてましたよ』

空煌兄さんが《もういいから》と
言わなければ、二人はまだまだ
買っていたに違いありません。

お母さん達と別れて
二人でブラブラと歩いていたら
後ろから声をかけられました。

『油島さん・西名さん
お久しぶりです』

声をかけて来たのは
この一ヶ月、兄さんが
連絡をしなかった
ご友人二人でした。

『秋鹿、なんでお前が
こいつといるんだよ!?』

ごもっともです。

『訳ありでして……』

僕が勝手に話す訳にはいきません。

『理由は僕の隣にいる
ご本人にお訊ね下さい』

お二人も僕からより
兄さん本人から聞きたいはずです。

『徹也』

名前を呼ばれただけですが
そこに隠れた意味はわかりました。

話さなければと頭では
わかっているけれど
お二人に話すのが怖いのでしょう。

信頼していないのではなく
仲のよいお二人にだからこそ
言いにくいのだと思います。

しかし、僕からは話せません。

兄さんがご自分の言葉で
話さなければ意味がないのです。

どちらにしても
駅ビル(此処)ではゆっくりと
話しもできませんね。

『話しがとびますが
僕らはまだ買い物の途中でして
話しをするなら家がよいと
思いますが少しだけ付き合って下さい』

「それは悪かったな。

わかった、付き合おう」

西名さんが同意したからか
油島さんも渋々
付き合って下さるみたいです。

『ありがとうございます』

店に行く途中でお母さんに
電話をし、事情を伝えました。

『お二人は何か買うものは?』

「大丈夫だ、お前達に
会う前に済ましてある」

帰ろうとしたところで
僕らを見つけたということでしょうか。

『では、駐車場に行きましょう』

車の中で
お母さんとお父さんに
お二人を紹介しました。