「お。もういらっしゃってたみたいだぞ、おまえの未来の花嫁さん。しっかし若いなぁ。ピンクの着物に負けないくらいきれいな肌してる。あれすっぴんだったら高校生くらいに見えるんじゃないか?」

「俺はロリコンじゃない。そんなことで喜ぶと思うのか?」


自分は若さを至上の基準として女の価値を量るほど薄っぺらな人間ではない。………珈琲店の彼女も、若いから惹かれたわけではないし。

そんなことを思いながら歩みを進めていくと、少し離れた場所にひどく気合の入った振り袖を着せられた小柄な子が見えた。やはりというか当然と言うか、『会食』などではなく『お見合い』で間違いないようだ。

どうやってこれからの退屈な時間を流そうかとほんの一瞬だけ考えてみたけれど、すぐにそんなつまらないことは脳裏から消え、『今日思い切ってひばり舎の彼女を食事にでも誘ってみようか』などという楽しい思考に流れていく。


「お待たせしました」


まずは三美社長に挨拶をして、それからたいして興味もない振袖姿のご令嬢の前に立つ。このときまだひばり舎の彼女のことばかり考えていたから上の空になっていた。だからその声を聞くまで気付かなかった。


「あのっ………三美ひよりと申します」


その一言で、まるで耳朶から電流が走り抜けたように驚きで体が震えた。すこし高めでやさしい、耳に楽しいこの声。


-------まさかこんな偶然があるわけがない。


そう否定する一方で、自分が彼女の声を聞き間違えるはずもないという確信もある。

今すぐ彼女の細い顎を引っ掴んで顔を確認したい衝動を堪えて、ゆっくりとお辞儀する彼女が顔を上げるのをじりじり焦げ付きそうなほどの期待と緊張の中待つ。

彼女の顔の角度が上がっていくごとに、理人の鼓動は近頃経験したこともないくらい割れんばかりに強くなっていく。

そして正面で向き合ったとき、最前までずっと脳裏に思い描いていた顔と、目の前にいるご令嬢の顔がぴたりと一致した。


「………あ、あの………?」


いつもより華やかで彼女の可愛らしさを引き立たせるメイクを施されているけれど、その戸惑った顔は間違いなく“ひよっこ店員のひよちゃん”だった。