「思春期にそんなことをされると、確かにかなりつらいな。俺なら耐えられそうにない。刃向かってるだろうな」
「幸い最近は父が“おともだち”を紹介してくることはなくなったんですけど、またいつ気まぐれを起こすかわからないって今も恐々としてるんです。……ほんとにもう、初対面の人と顔を付きあわせて何時間も愛想笑いを浮かべ合うようなことはうんざりで。もう永遠になきゃいいんですけど」


いつになく沈んだ声で語る彼女の様子に、いかに彼女が過保護な父親の独善に困ってきたのかが伝わってくる。


「………ほんときつかったです。もともとそんな社交的な方じゃないから、ほんと毎回拷問受けてるような心地でした」
「君のお父さんにしても俺の知人の方にしても、よかれと思ってしてくれていることだと分かってるけれど、困ったものだね。好意であるがゆえに無下に断ることも出来ないし」
「ほんとそうですよね。人の好意ほど厄介なものってありませんよね。……お互い、苦労しますね」


共感を示すように彼女が苦笑するから、その顔を見て理人の中にはっきりとした意志が芽生えた。


「………ありがとう。今日君に話したおかげで、きっぱりと断る決意が出来たよ」
「断るって、明日の約束キャンセルするんですか?」
「いや、さすがに今からでは無理だな。でも、せめて相手には自分の気持ちを伝えてくるよ。お付き合いする意志はないって」
「お付き合い………?」
「自分が誰と親しくしたいのかはっきり分かったから、けじめをつけて来ようと思ってね」


きっちりとけじめをつけたら、そのときこそ彼女を誘ってみよう。そんな決意をすると、明日お見合いに臨む憂鬱さが晴れていく。

明日さえ終われば。明日が過ぎたら、もう年齢差のことだとか余計なことは何も考えずに、躊躇わずに彼女に声を掛けよう。そんな揺るぎのない思いが静かに理人の胸に芽生えていった。