「実は昨日三美社長に会ってきたんだ」
「父に?」
「社長は俺たちの結婚式の日取りを秘書の村井さんと相談していたよ。1年半後の大安の日曜日に、パレスホテルのチャペルも大宴会場も抑えられそうなんだって」
「えっ!?」
「どうする?このままだと俺たち、本当に結婚することになるけど?」


そんなの………望むところです。


たとえ初めはお父さんが勝手に言い出したことなんだとしても、私は既にいつかチャペルで挙式をするなら高見さんの隣に並びたいって夢見てしまっている。

でも高見さんはどう思っているのか分からない。私の気持ちに気付いているのかいないのかも分からない。私よりずっと大人の高見さんは心の内を中々教えてくれないし、顔にも出してくれないからだ。


「まだ恋愛もしたこともないのにいきなり俺と結婚だなんて、ひよりは本当にそれでもかまわないのか?後悔するんじゃないのか」

これは私を思い遣って言ってくれた言葉なの?それとも私の気持ちを知っててわざと意地悪で言っている言葉?

高見さんのポーカーフェイスみたいな笑顔を見てもやっぱり何も分からない。だから私はつい試すような言い方をしてしまう。


「高見さんこそいいんですか?偽装のつもりだったのに、私みたいな小娘と本当に結婚することになってしまいそうなんて。取り消すなら今のうちですよ?むしろ取り消すなら今しかありませんよ?」
「………それはつまり、ひよりは婚約破棄したいというわけか?」
「あ、えっと。もし高見さんがそう望んでいるなら、という話なんですが………」

しどろもどろになる私に、なぜか高見さんは一瞬鋭く目を眇める。

「いや。責めているんじゃないよ。……ただ、そうだな。考えてみれば君はお父さんに意志表示をするのが苦手なんだから、自分から嫌とは言えなかったよな。俺は君のそういうところ、ちゃんと分かっていたはずなのに……」

自分で振った話題が、なぜか意図しなかった方向に捩れていく。