「なんだか随分楽しそうな顔をしてたけど、もしかして三美さん、俺のことでも考えててくれた?」

人懐っこい笑みを見せる清木さんは、いきなりそんなことを言ってくる。

女子を見れば間髪入れずに口説き文句を言ってくるのは、この人の癖のようなもので特別な意味なんてない。最初はいちいち過剰反応をしてしまっていたけれど、今はもう適当に受け流せるようになっていた。

「…………何言ってるんですか。からかわないでくださいよ」
「からかってなんかないって。それよりさ、今夜ごはん行かない?一人で侘しく食うより、三美さんと一緒に食べた方が断然うまいと思うんだ。だからさ、頼むよ。な?」

清木さんは花形である営業課での成績も麗しいデキる男で、おまけに顔も男らしく整ったイケメンだ。社内で女子人気を独占している彼に甘えられるように誘われれば、好意のあるなし関係なく顔はのぼせたように勝手に熱くなってしまう。

そんな自分を恨めしく思っていると、清木さんはますます私に近付いてくる。

「こんなに誘ってるんだから一度くらいいいだろ?この前接待で行った店がアタリで、今度は三美さんを連れてきたいって思ったんだ。……仕事中もそんなこと思うくらい、俺がこんな本気で声を掛けるのは三美さんだけなんだよ」

さすがはモテる男。清木さんみたいな人にこんな真摯な目をして訴えられれば、女の子は誰もが落ちずにはいられなくなるはずだ。

でも私はもう二度と清木さんの言葉に浮かれたりドキドキしたりすることは出来ない。清木さんが言葉の端々に匂わせる『君だけは特別』というメッセージが本心じゃないと分かっているからだ。


「すみません、私そろそろ戻らないと。清木さんも冗談は程ほどになさってください。こんなところ彼女さんに見られたら困るでしょう?」
「三美さん?………何を聞いたのか知らないけど、俺はいい加減な気持ちで声を掛けてるわけじゃない。だから俺を信じてくれないか」
「っ………ちょっと清木さんっ」

いきなり腕を掴まれて、強引に引き寄せられて。気付いたときには唇の端に何かが掠っていた。あまりのことに茫然としていると、清木さんは自分の方が傷ついたような顔をする。

「ごめん。でも俺は三美さんのこと」
「………もういいから、お願いですから離してください」

それでも離してくれない清木さんに困っていると、いきなりドアの開く音がして冷かすような声が聞こえてきた。

「おいおい清木、おまえこんなところで何ナンパしてんだよ」

私も清木さんもびっくりして振り返ると、リフレッシュルームの入り口には営業2課の山口さんが立っていた。彼は清木さんの同期で友人だった。