私だって東京での失恋と、それに伴って仕事を辞めたことは心の中でずっとつかえていたことでもある。
社会人としてあまりにも非常識な行動だったし、これからはそうあってはならないと自分に喝を入れた。


自分の強い意思で「やりたい」と思った仕事を出来ている今、以前のようなことはどんなことがあってもしないと誓って言えるほどだ。


「どれ、じゃあ姉ちゃんが生きがいを感じてる仕事とやらを、ちょっと見せてよね」


生意気な口の聞き方でそう言った妹は、ベッドから体を起こして私に手を差し出してきた。
持ってるコートをよこせ、と言いたいらしい。
私がコートを渡すとすぐさまそれを再び着て、里沙は「行こっ」と私の腕を引いた。


妹と部屋をあとにして、ウズウズしたように彼女に声をかける。


「良かったら犬ゾリに乗ってみない?……あ、雪がないから台車になっちゃうけど、それなりに楽しめるからさ!」

「え〜……いいよ、服とか汚れない?」

「汚れない汚れない!」

「ハスキー犬怖いんだけど」

「怖くない怖くない。超人懐っこいから!」


あまり動物自体そんなに好きではない里沙は、小さい頃から動物園を拒否する不思議な子だった。どうやら継続中らしい。
彼女に言わせると、動物とは意思疎通が出来ないから苦手のようなのだ。


「案内しながら犬舎に向かいましょ」


気だるそうな里沙を引っ張って、私は意気揚々と外へ出た。