グレーのニット帽の下から、帽子と同じような色の長めの髪の毛が現れる。
アッシュグレーっていう色が的確かどうかは謎だけど、なんていうか不思議な色。
ネックウォーマーを取ると、男の人にしてはちょっと色白な肌があらわになった。


ひとつひとつの動きをじっと見つめていたら、彼の唇が動いた。


「宿泊客?」


ゴーグルをなかなか取らないので、まだかしらと待ち構えていたから拍子抜けする。
あ、と声を出して肩をすくめた。


「そうです、急きょ泊めてもらうことになりました」

「あっそ」


彼は聞いてるんだか聞いてないんだか微妙に判断に困るような返事をして、大きなゴーグルに手をかけた。
あぁ、いよいよこの人の目が見れるぞ。
と、期待していたら。


「滝川さーん」


タイミングよく泰助さんが家の奥から小走りでやって来た。
彼の後ろには、ショートヘアの見るからにサバサバしてそうな綺麗な30代後半くらいの女性。
もしかして泰助さんの奥様?
泰助さんは非常に落ち込んだ様子だった。


「滝川さん、ごめん!実は、夕方に先に宿の予約が入ってしまって、部屋が全部埋まっちゃったみたいなんだわ」

「えええ!そうなんですか!」


なぬーーー!
そんなことが起きようとは!
これは困ったぞ。
右も左も分からない極寒の地。もはや公共機関なんてどこを通ってるかも知らない。
それでここからまた移動しなけりゃならないなんて、これはかなりの試練だ。
ましてや極度の方向音痴。
2度目の遭難は目に見えている。


ショックで固まった私に追い打ちをかけるように、さっきの彼がゴーグルをかけたままボソリとつぶやく。


「野宿したら凍死決定だべさ」


…………なんて不吉なことを。
てゆーか、野宿する前提で話してないか?