顔を上げた健太郎は、少し寂しそうに笑って愛美の頭を撫でた。

「無理してんの気付いてやれなくて、悪かったな。でも俺はマジで愛美が好きだった。」

「うん。」

「ただ彼女が欲しかったとか、やらせてくれる女なら誰でも良かったとかじゃないからな。」

「わかったから。」

愛美は穏やかに笑って、健太郎の頭をクシャクシャと撫でた。

「遠慮なく言いたい事言えるのも、一緒にいて子供みたいにはしゃげるのも、健太郎が小さい頃から信頼してる幼馴染みだからだよ。」

「…それってさ、もう完全に見込みないからあきらめろって言ってる?俺、愛美の事本気で好きなんだけど?」

「ん?うん…。気持ちは嬉しいけど、私には好きな人がいるからね…。」

「それって、緒川さん?」

「…うん…。」

「そっか。」




自宅に戻った愛美は、シャワーを済ませベッドに寝転がって天井を眺めた。

(やっぱり政弘さんが好き…。他の人じゃダメなんだよね…。)

素直に甘えられるかわいい女になるのは、自分には難しいかも知れない。

だけど自分の正直な気持ちを伝える事ならできるだろうか?

(好きな人のために、少しでも綺麗になる努力から始めてみようかな…。)


いつもより入念にスキンケアをした。

ベッドサイドの引き出しからハンドクリームを取り出して、少し荒れた手に塗り込んだ。

それで急に綺麗になれるわけではないけれど、明日の夜は思いきって“政弘さん”に、会いたいと言ってみようと愛美は思った。